人生会議(ACP/アドバンス・ケア・プランニング)
および救急対応に関するアンケートからの考える
これからの地域連携
人生会議(ACP/アドバンス・ケア・プランニング)
および救急対応に関するアンケートからの考える
これからの地域連携
人生会議(ACP)とは
“もしもの時に本人が望む医療やケア”について、前もって家族や医療・介護職と話し合い、共有しておく取り組みのことを「ACP:アドバンス・ケア・プランニング」―日本では“人生会議”と呼ばれています。
これは、前もってお話しておくことで、もしもの時に本人様が意思表示が難しい場合でもご意向に沿った選択肢を選んだり、ご支援させていただくためにもとても大切なことです。また、本人様の希望や想いは、人生の変化や体調によって、考え方も変わっていくものなので、一度きりの「話す機会」ではなく、話し続けること、話続けていく関係が大切です。
目次
=アンケート概要=
回答者の属性について
1)職種
2)現在の職種での経験年数
3)主な勤務先の種別
=調査項目=
人生会議(ACP)の認知度・実践状況について
1)人生会議(ACP)という言葉、その取り組みの認知度
2)人生会議(ACP)に関する研修や講演会等への参加状況
3)自らが本人・家族と“もしもの時に本人が望む医療やケア”について話す機会の有無
4)かかりつけ医や他事業所との情報共有方法
5)“もしもの時に本人が望む医療やケア”について、話し合うことが難しいと感じること
急病・急変時の対応や多職種連携について
1)急病・急変時に本人が意思を示せず、治療やケア方針の決定に困った経験の有無
2)1)で「ある」と答えた方は、特にどのような点に困ったか
3)地域で人生会議(ACP)を普及・啓発するため、必要だと思う支援等
自由回答
=考察=
回答者の属性について
1)職種
2)現在の職種での経験年数
3)主な
アンケート概要 (調査期間:2025年9月1日~10月8日)
千歳市在宅医療・介護連携支援センターによる市内介護事業所を対象した、「人生会議(ACP/アドバンス・ケア・プランニング)および救急対応に関するアンケート」を実施。
千歳市内の医療・介護現場におけるACP(人生会議)の認知度や実施状況、ならびに救急対応時の課題を把握することを目的とする。
現場での実態を明らかにし、今後の多職種連携の強化やACP(人生会議)の普及啓発、救急医療体制の質の向上に向けた取り組みに活用していく。
アンケート結果と考察については、2025年10月25日開催の千歳医師会主催「救急医療フォーラム」にて発表するとともに、当会ホームページにて公表。
内 容:人生会議(ACP)および救急対応に関するアンケート調査
対 象:市内の介護サービス事業所に勤務するケアに関わる職員
回答数:606名(協力:50法人・112事業所)
協力していただいた事業所の種類(n=112)
【入所系サービス 】30事業所
16 認知症対応型共同生活介護
5 住宅型有料老人ホーム
2 サービス付き高齢者向け住宅
2 特別養護老人ホーム
1 介護老人保健施設
1 養護老人ホーム
1 ケアハウス
1 短期入所生活介護
1 予防短期入所生活介護
【複合型サービス】9事業所
8 小規模多機能型居宅介護
1 看護小規模多機能型居宅介護
【通所系サービス】24事業所
18 通所介護
1 予防通所介護
1 認知症対応型通所介護
4 通所リハビリ
【訪問系サービス】30事業所
12 訪問介護
11 訪問看護
5 訪問リハビリ
2 定期巡回随時対応型訪問介護看護
【福祉用具】2事業所
2 福祉用具貸与販売
【ケアマネジメントサービス】17事業所
12 居宅介護支援事業所
5 地域包括支援センター
=調査項目=
回答者の属性について
1)職種
2)現在の職種での経験年数
3)主な勤務先の種別
人生会議(ACP)の認知度・実践状況について
1)人生会議(ACP)という言葉、その取り組みの認知度
2)人生会議(ACP)に関する研修や講演会等への参加状況
3)自らが本人・家族と“もしもの時に本人が望む医療やケア”について話す機会の有無
4)かかりつけ医や他事業所との情報共有方法
5)“もしもの時に本人が望む医療やケア”について、話し合うことが難しいと感じること
急病・急変時の対応や多職種連携について
1)急病・急変時に本人が意思を示せず、治療やケア方針の決定に困った経験の有無
2)1)で「ある」と答えた方は、特にどのような点に困ったか
3)地域で人生会議(ACP)を普及・啓発するため、必要だと思う支援等
自由回答
属性の内訳(協力事業所種類、回答者/職種・経験年数・所属事業所)
1)回答者の職種について(n=606)
375 介護福祉士・介護職員
78 看護師
52 介護支援専門員
34 管理者・施設長等
33 リハビリ専門職(PT・OT・ST)
13 相談職(社会福祉士・精神保健福祉士等)
7 (記載なし)
4 保健師
3 管理栄養士
2 調理職員
2 事務職
1 実習生
1 福祉用具専門相談員
1 送迎ドライバー
2)現在の職種での経験年数
51 1年未満
152 1~5年未満
158 5~10年未満
181 10~20年未満
64 20年以上
3)主な勤務先の種別
168 認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
93 通所介護
58 訪問介護
56 特別養護老人ホーム
54 小規模多機能型居宅介護
44 訪問看護
25 サービス付き高齢者向け住宅
25 居宅介護支援事業所
19 地域包括支援センター
16 通所リハビリ
12 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
11 有料老人ホーム
9 看護小規模多機能型居宅介護
5 介護老人保健施設
3 訪問リハビリ
2 福祉用具貸与販売
1 障がい福祉サービス
1 共生型ケアホーム
1 ケアホーム
1 養護老人ホーム
1 重症心身障害児者施設
1 特になし
人生会議(ACP)の認知・実践状況について
1)人生会議(ACP)という言葉、その取り組みへの理解
18 よく理解しており、説明できる
129 ある程度知っている
176 言葉を聞いたことがある程度
283 初めて聞いた/わからない
2)人生会議(ACP)に関する研修や講演会等への参加状況(n=606)
13 3回以上
63 1~2回
530 ない
3)担当する本人・家族と“もしもの時に本人が望む医療やケア”について話す機会の有無
20 日常的に話す機会がある
213 必要に応じて話す機会がある
117 話したいが機会がほとんどない
256 話す機会はない
4)本人・家族と話し合った内容のかかりつけ医や他事業所との共有方法(複数回答可)
108 ケアプラン(介護サービスプラン)に記載
11 「リビングウィル事前指示書」「医療事前指示書」等、別様式を使用
207 会議録・経過記録に記載
105 電話、メール、FAX等で共有
174 特に記載していない
69 その他(記載なし)
20 (回答なし)
18 機会がない
10 わからない
2 上司に伝える
1 共有していない
1 毎月の報告書等での報告予定
1 訪問看護報告書に記載、早急に共有すべき時は医師やケアマネジャーに電話連絡
5)“もしもの時に本人が望む医療やケア”について話し合う際、難しいと感じる点(複数回答可)
85 本人や家族が話し合いを望んでいないように感じる
213 どのタイミングで、誰が切り出すか分からない
91 話し合った内容の記録・共有の方法が定まっていない
80 話し合いの時間が確保できない
126 話の切り出し方がわからない
14 (回答なし)
19 機会がない
101 その他
(その他の内訳/101)
65 その他(記載なし)
4 わからない
2 認知症状により、自身の思いをうまく表現できない点
7 難しいと感じた場面はない。
4 本人と家族の望むものが違う時
1 予後の短い方に、話を切り出しが難しい場合がある
1 話し合いの時間が確保しづらい、担当する全て利用者(50〜60名)に必要なのか判断しかねる
1 事務所を通さないといけない場合がある。
1 その時の感情や病状によっても望むケア内容が変わることもあり、回数やタイミングは難しい
1 話し合う頻度
1 家族の意向と従事者が良いと考える方針が合わないことがある
1 本人と家族が決められない時
1 本心かどうか真意がわからない時
1 本人や家族にとって重たいテーマなため、質問すると驚かれたり、何故そのようなことを聞くのか?というような様子がみられることがあり、切り出し方に苦慮する
1 本人の意向ではあるが、家族の思いなどを共通理解として認識し合うことが難しい
1 高齢であるため、もしもという前提でACPを確認するが、サービスを利用しに来ただけなのにという家族もいる、また、本人と家族との間で確認できずに意向が異なることがある
1 認知症などにより本人の意思を確認できない時
1 医師の治療方針を介護側が共有できていない時、本人の認知機能に問題があるが推定意思を確認できるような関係者がいない時
1 家族がもしもの時のことをイメージできない時
1 本人、家族がまだもしもの時のことを考えてなく、急に話されて驚かれる時
1 その時を考えられない、または見ないようにしているとき
1 終末期以外で話をするのは難しい。考えていないと言われる。
1 脳転移で理解判断できない方、加えて独居の方への話すタイミング
1 認知症があり、本人の本当の意向かどうかわからない、聞いた内容で合っているかどうかわからない時
急病・急変時の対応や多職種連携について
1) 急病・急変時に利用者が意思を示せず、治療やケア方針の決定に困った経験(複数回答可)
17 頻繁にある
124 時々ある
132 1~2回ある
333 全くない
2)前問で「ある」と答えた方は、特にどのような点に困ったか
126 本人の意思(延命治療の希望など)が分からなかった
75 家族間で意見が分かれ、方針が決まらなかった
73 本人の意思と家族の希望が異なっていた
30 かかりつけ医やケアマネなど、普段の様子を知る関係者と連絡が取れなかった
24 医療職が提案するケア方針と本人の希望にズレがあった
28 医師や医療職に本人の希望を伝えられなかった
322 (前問で「全くない」を選択した方)
1 (回答なし)
36 その他
(その他の内訳/36)
16 その他(記載なし)
2 生死を分けるような、もしもの時に遭遇したことがない
2 体調の急変時に家族が動揺し、予め検討していた内容を基に判断できないケースがあった
1 家族がいないため確認できない
1 家族が決めることと考える
1 状況等で気持ちが変わるため、どの時点で確認しておくのか、迷うことが多い
1 家族様との話し合いが行われてなく、急変時に対応に困った(数日後に利用者様が亡くなったが、方針が決まっていたら、家族様と利用者様の最後のお別れの時間が取れ、家族様が看取る時間ができたと思い、とても残念だった)
1 急変時はやはり助けたいと思う
1 救急車を呼ぶかどうか悩む・困ることがあった
1 救急車を呼んだが意識が回復し、搬送はしないこととなり、その判断を承諾したとき
1 救急搬送された医療機関に家族が到着していないため、医療機関から職員に「家族から何か聞いていないか?」と治療の判断を求められた
1 施設の方針の認識不足
1 上司に相談し、指示を仰ぐ
1 食事中(食介中)突然けいれん
1 前職時に方針が定まっておらずに困ることが良くあった
1 対応方法に決まりがなく、対応する者もこちらにない
1 必要な情報が把握出来ていない
1 訪問介護から本人に直接伝えてい良いものかケアマネと話す機会も無かった
1 本人の意思が何となくしかわかっていなかったため家族の意見を重視していたように思われる
3) 地域でACP(人生会議)を普及・啓発するため、必要だと思う支援(複数回答)
353 介護・医療職向けの研修や勉強会
275 家族・市民向けの講演会やパンフレット等の啓発資材
200 多職種が情報共有できる連携ツールや会議の場
122 ACPに関する地域相談窓口の設置
164 統一された記録・共有様式(シート)の導入
228 かかりつけ医と事業所の連携強化、顔の見える関係づくり
26 特に必要性を感じない
23 (記載なし)
16 その他
(その他の内訳/16)
5 その他(記載なし)
4 わからない
1 いつ体調が急変するか分からないので、ご本人とご家族様の方向性を決めて頂く事が良いのではないかと思います。
1 医療機関でACPの確認・対応をしてほしい。
1 これは一般の方対象なのか、認知症含めなのかまた年齢は関係あるのか?
1 普及が必要なら本人や家族にACPの説明と必要性を話し、興味を持ってもらうことからすればいいと思う。
1 家族間、家族と施設、家族と施設と病院など様々な連携が必要です。また、施設間での連携も・・・。大きなことを掲げるにも小さな連携が取れていなければ宙に浮いてしまいそうです。
1 認知症パスのような、ACPに関する筋道や考え方が誰にでも分かる資料
1 他事業所における取組や、書式見本を参考に見てみたい。
自由回答
本人の意向を知っているスタッフは管理者等の職責者のため、会社(施設)内の見える化をもっと行い、現場スタッフにもしっかりと共有すべきだと思う。現場スタッフは情報が薄いと感じている。
家族が本人の病状や状態を理解したうえでACPについて話し合うことが必要なため、まずは本人の状態を理解してもらえるよう支援する必要がある。
人生会議をしたときに記載できるエンジェルノートなどの例など、もっと身近にあればよいと思うので、自分で作成するのか、どこかで作成している者があるのか知りたいです。
食べれなくなった方は胃ろうに”する”か”しない”かも、人生会議で家族で話し合っておくべき内容だと思った。
個人の経験ですが、親が終末期になった時に、本人の気持ちを聞いておけばよかったと実感しました。必要な事なのはわかります。
ACPに対する理解が少しずつでも広がって行く事がこれから必要と感じる。
本人や家族も、どのような制度があるのか、どこに相談したらよいのかわからない方が多いと思うので、周知や講演会などの機会があると良い。
今回のアンケートで初めて知った。ACPについて調べて把握に努めたい。
ACPという言葉を初めて知った。
認知症により、自分の現状を把握できない方にも、ACPを提案できるようなツールがあるとよい
認知度が低いため制度を普及するには時間を要すると思う。
APCの研修あれば参加したい
この様なアンケートも大切ですが、その結果を共有してほしい
本人・家族ともに高齢になることで、体力低下への認識、自認が低い方が多く、もっとACPを拡げる必要を感じる。
情報共有ツールについて、できるだけ早急に実現していただきい
人生会議で決定しても、意見は変わりやすいと思うため、1回だけではなく何回もやる必要があるのではないかと感じた。
本人が明確に意思を示すことができるよう、勤めて早い時期に実施すべきでないか
看取りを行っており、全入居者のキーパーソンに何かあった場合の取り決めも行い、様々な説明を行い、看取り介護・リスクの同意も全てのキーパーソンよりいただいている。
考察
今回のアンケートにご協力いただいた皆様、誠にありがとうございました。
集まった回答からは、単に「人生会議(ACP)を知っているか・いないか」という数字以上に、現場で悩みながらも利用者の皆さんに寄り添おうとする介護・医療従事者の「想い」と、地域が抱える「課題」が浮かび上がってきました。
在宅医療・介護連携支援センターとしての視点から、今回の結果を3つのポイントで考察します。
1.「言葉」は知らなくても「実践」している皆さんがいます
アンケートでは、ACP(人生会議)という言葉を「初めて聞いた・わからない」と答えた方が約半数(46.7%)います。また、8割以上の方が関連する研修に参加したことがないと回答されている。
一見すると「知識不足」に見えるかもしれません。しかし、回答者の6割以上は、日々利用者の生活を一番近くで支えている介護職員の皆さんです。「話したいけれど、日々の業務に追われて機会がない(19.3%)」、「どう切り出せばいいかわからない(17.3%)」という声からは、「本当はもっと利用者さんの人生に寄り添いたい」という現場の葛藤が伝わってきます。
大切なのは、「ACP」という専門用語を覚えることよりも、従事者の皆さんが普段のケアの中で行っている「何気ない会話」や「その人らしさを大切にする関わり」こそが、すでに立派な「人生会議」の一部であると気づくことではないでしょうか。
2.「個人の記憶」から「チームの共通認識」へ
救急対応の際、「ご本人の意思が分からず困った」という経験が最も多く挙がっています。一方で、話し合った内容の記録については「特に記載していない」という回答が約24%あり、大切な情報が担当者個人の記憶だけに留まってしまっている現状(属人化)が見受けらる。
もしもの時(点)の対応だけでなく、その方が「どう生きたいか」という人生の物語(線)を、チーム全体で共有する仕組みが必要です。「共通の記録シートがない」ことは課題の一つですが、それ以上に重要なのは、「利用者さんの人生観を、チームみんなで守り抜く」という意識の共有なのではないでしょうか。
3.地域全体で「共に学び、支え合う」関係づくり
「顔の見える関係づくり」や「多職種が連携できるツール」を求める声が多く寄せられました。また、市民やご家族向けの啓発が必要だという声も約2割ありました。
現場の職員だけで全ての責任を負う必要はなく、大切なのは専門職同士が職種の垣根を越えて悩みや事例を共有し合う「共育(共に育つ)」の場や、地域住民の皆さんも交えて「生き方・逝き方」についてオープンに語り合える土壌を作ることが、結果として現場の負担を減らし、安心した暮らしにつながっていくと考えます。
これから私たちが目指すもの
今回のアンケート結果は、研修会を開いたり、新しいツールを導入したりするだけでは解決できない「人と人とのつながり」の重要性を教えてくれています。
それは例えるなら、険しい山(高齢化社会)を登るための「登山チーム」を作るようなものです。 便利な「地図(ツール)」や「登り方の講習(研修)」も大切ですが、それ以上に必要なのは、「一緒に登る仲間(多職種)」との信頼関係であり、「どの山頂を目指すのか(ご本人の望む生き方)」というゴールの共有です。
私たち専門職だけでなく、市民の皆さんも含めた「地域」という一つのチームで、支え合いの輪を広げていきましょう。
地域で暮らす皆様へ
“もしもの時に本人が望む医療やケア”について考えることは、専門職だけで解決できるものではありません。市民の皆様も、大切なチームの一員です。主役であるあなた自身が急病や認知症などで意思が伝えられない時に、希望や意向を共有していなければ伝える事ができません。特別な会議は必要なく、「もしもの時はこうしたい」「最期は家がいい」 そんな「いつものお話」を私たちチームメイトと話してください。
「もしも」の時に慌てないために、そして住み慣れた地域で自分らしく生きていくために、一緒にお話ししましょう。
ちとせの介護医療連携の会では、市民フォーラムや勉強会などの地域活動を通して、介護医療福祉従事者と地域の皆様との顔の見える関係づくりを深めていきたいと考えております。
まずは、皆様の近くの人と話してみましょう。ご相談等ありましたら、気兼ねなく当会にご相談していただければ幸いです。また、お住いの地域包括支援センターや通われている医療機関の相談員もご相談を伺うことが可能です。
皆様のこれからのことを一緒に考えていきましょう(^^)/